トルコには、結婚の方法は30通りもある(前編)


1.下見女(görücü)*1を通じた結婚:
伝統観の根強い地方に多く見られる結婚。娘選びは、結婚予定の若者の母親、父親、近親者によって始められる。若者が娘を気に入るだけでは十分でない。


2.略奪婚(kız kaçırma)/駆け落ち婚:
家族が結婚に完全に反対である場合、略奪(駆け落ち)という現象が引き起こされる。この状況は、社会経済的理由により、あるいは別の理由により、娘側が障害となって発生している場合が最も多い。
この障害の中で、娘側の要求する嫁取金は大きな位置を占める。


3.嫁取金(başlık parası)を伴う結婚:
嫁取金とは、結婚する若者が娘側に支払うお金のことを指す。これは現金以外に、金、家、田畑、農地、家畜という形でも通用する。
東部および東南部の田舎で広く通用している嫁取金だが、これの値引き交渉の片をつけることを、「嫁取金を差し引く(başlık kesme)」と表現する。
嫁取金は、女性を品物と見なす考えの産物であり、原始的な物の考え方の継続といえる。


4.居座り(oturak alma)婚/押しかけ婚:
男性が娘を無理やり連れ去るという状況があれば、娘が風呂敷包みひとつで若者の家に押しかけ、居座るという状況も存在する。これを一部の地方では、「腰掛けを取る(oturak alma*2」と表現する。娘が見初めた男の下へ逃げることもよくある。


5.ヘッドスカーフを奪うこと(baş örtüsü kaçırma)による結婚:
ハッキャーリ、ワン、アール、エルズルムの郡部で見かける結婚で、娘の持ち物を奪うことが、娘を奪うことと同等と見なされている。若者の家族は、娘の家族の同意をうる必要がある。


6.ゆりかごに刻み目(beşik kertme)婚/いいなずけ婚:
互いに非常に仲の良い親友、隣人、近しい者たちが、子供がまだゆりかごにいる間に、ゆりかごにそれぞれ刻み目(kertme)をつけることで婚約させるもの。


7.仔馬が来た(taygeldi)婚/連れ子婚:
未亡人となった女性が、亡くなった夫の子供を連れて、やもめの男性と生活する。あるいは妻を亡くした男性が、亡くなった妻との子供を連れて、独り身の女性と生活するところに発生する結婚。男性もしくは女性の連れてきた子供は“仔馬が来た(taygeldi)”=連れ子と呼ばれる。


8.妾連れ(kuma getirme)婚:
共和国成立以前、不妊の妻を持つ、もしくは男子を持てない男性は、新たな結婚をすることが多かった。現在でも、東部および東南部の田舎では続けて行われている。
このような結婚においては、最初の妻は、後からやってきた新しい妻の下位に置かれることになる。


9.相当・見返り・等価交換(berdel/bedel)婚:
アナトリア東部および東南部において多く行われている結婚で、嫁取金の問題を取り払う意味を持つ。
互いに娘や息子を持つふたつの家族間で、互いに相当するもの・見返り(bedel)としてそれぞれの娘と息子を結婚させあうところに発生するもの。


10.不毛(kepir)婚・異種交換(yaban değisimi)婚:
強制的に行われる結婚の形態で、結婚したいが嫁取金や披露宴の資金を用意できるお金のない、あるいはまた家族の引き起こす問題によって結婚をためらう二人の友達同士が、それぞれの女兄弟を交換し合うもの。


11.死んだ兄弟の妻との結婚・レヴィラット(Levirat)婚*3
東部および東南部でよく見かけるもので、トレ(因習・伝統的習慣)に根ざす結婚の形態。
純潔をよそ者に奪われないための知恵で、夫を亡くした女性が、夫の独身者である兄弟と再婚する、もしくは、既婚者である兄弟の2番目の妻となるもの。


12.妻の姉妹との結婚・ソララット(Sorarat)婚:
妻を亡くした男性が、亡くなった妻の姉妹と結婚するもの。
母を亡くした子供たちに対し、伯母・叔母なら継母としてより寛容に振舞うだろうという考えが、この結婚の選択に影響を与えている。


13.婿養子(içgüveyi)婚:
男子のいない、経済的にも恵まれた家族で、娘を外に嫁にやるよりも、婿を「婿養子(içgüveyi)」として家に迎える場合がある。特にひとり娘を持つ家族は、この方法をとろうとすることが多い。


14.孤児(yetim)婚:
両親に死なれ、兄弟姉妹もいない若者か娘を、身寄りのないままにしておかないために、近親者の一人と結婚させるもの。
この結婚の根底には、人助けと社会的連帯への欲求が横たわっている。


15.近親婚:
トルコでは、夫婦の4組におよそ1組は親戚同士であり、その相手の80%は従兄弟・従姉妹であることが明らかになっている。

*1:結婚を希望する男性のために、娘の下見を行う女性。görücü gitmek は、下見に行くこと。görücüye çıkmakは、下見女の案内された部屋に当の娘が見てもらうために現れること。

*2:oturakは「腰を落ち着ける場所」「(木製の背の低い)腰掛け」という意味合いの他、さまざまな意味で使われるが、ここではとりあえず「腰掛けを取る」=「居座る」と訳しておく。

*3:Levirate/レヴィリット婚:夫を亡くした妻に子がない場合、その妻は夫の兄弟または近親者と結婚するという古代ユダヤの慣習。