トルコには、結婚の方法は30通りもある(後編)


16.既成事実(oldubitti)婚:
ある既成事実によって、一方がもう一方に無理矢理に結婚に持ち込むもの。
娘が男性の弱みに付け込んで関係を迫る、あるいは男性が娘の弱みに付け込んで誘惑(暴行)することによって、結婚へとつなげるものである。


17.金銭と引き換えの結婚:
東部および東南部の田舎の、貧しく教育のない環境の中で見られる。
小学生の子供を通学させず、あるいは退学させ、金銭と引き換えに結婚させるもの。


18.血の代償としての結婚:
東部および東南部の田舎では、殺された人物の「血の代償(kan bedeli)」として、お金、金、家や田畑と並んで、娘が引き渡される現象が見られる。
無教育が根底にある原始的な結婚のかたちである。


19.知り合い、理解し合っての結婚/恋愛結婚:
大きな都市部で、また教育程度の高い環境において、最も広まっている結婚のかたち。
娘と男性が、一定期間友人として付き合い、お互いをよく知り合ってから行われる結婚である。
個性を発見し、経済的にも自由な教育程度の高い若者が、この方法で結婚することを選択する。


20.一夫多妻婚:
共和国成立後禁止されたにもかかわらず、教育の行き届かない田舎ではいまだに継続されている。
男の子を多く持つことで、周囲を支配しようという目的が優先される。


21.契約結婚
やもめ暮らしの女性もしくは男性が、老年期に行う結婚のかたちである。
世話の必要な年老いた男性が、未亡人もしくは未婚の女性と、取り決めの上で宗教的結婚を行う。相手の女性には、お金や金などの経済的支援がなされる。
法律上の結婚を行っていないため、年老いた男性が亡くなれば、女性はそれまでに贈られた金品だけで満足しなければならない。残された遺産は、男性の法定相続人によって分配される。


22.出会い頭の結婚:
偶然の出会いの結果、後先考えずに行われる結婚。
旅行の途中や、友達、友人知人、親戚の家で出会って、あるいは電話で話す時の声や、目や脚、胸に惹き付けられたといった理由で、非常に短期間で決断された結婚である。


23.選択的結婚:
このタイプの結婚は、一般的に母親、父親、祖母、祖父のような家族の中の年長者の勧めによって行われるものであり、一般的に隣人や近親者などの間で行われる。
社会的にみてこの結婚は、経済力の同等な家族間で多く見出せる。


24.外国人との結婚:
外国で働いている者が行う結婚である。
この結婚は、外国人から娘をもらう、あるいは外国人へ娘をやるというかたちにおいて見られるものである。
何らかの楽しさ、虚しさ、問題を伴う結婚である。


25.異なる宗派間の結婚:
結婚が実現されるまでに出くわす障害のトップに、宗教・宗派の違いがくる。


26.妾を囲っての結婚:
大きな都市に暮らす、教育のない金持ちの間では、裕福さの指標として「妾を囲う(metres edinme)」ことがファッションとなっている。
あらゆる点で手入れと出費には事欠かない別の家に、2番目の女性を住まわせて築く不法な関係である。


27.資料(muta)*1結婚:
ある一時のために行われる結婚である。
イランでよく行われているが、トルコでもある環境のもとに行われているのが見られる。


28.仇をとる(öç alma)ための結婚:
殺害を原因とした恨み(kan davası)を持つ、封建時代から続く家族間で、ある家族が先方の家族の名誉を傷つけ、信望をダメにする目的で行う結婚。


29.外婿(dış güveyi)婚:
最近、日本のテレビ番組の仲介で、トルコに結婚相手を選びに来たクニ・ナカゾノに示された極端な関心*2は、トルコ男性が「外婿(dış güveyilik)」という話題に大いに関心を抱いたことが明らかになった。


30.広告による結婚相手の選択:
ごく最近、新聞・雑誌・テレビのテレテックス・ページやインターネットで広告を出すことで結婚相手を選ぼうとする傾向が多く見られる。



* * * *


トルコで見ることのできる結婚形態を以上30種に分類したのは、エルズルムにあるアタチュルク大学カズム・カラベキル教育学部トルコ語学科助教授ルトゥフィ・セゼン(Lütfi Sezen)博士である。
博士は、「トルコにおける結婚形態(Türkiye'de Evlenme Biçimi)」をテーマとした研究において、トルコの広範囲で調査を行いこの結果を発表したが、博士は、トルコで見られる結婚形態の大部分は、女性の発言権の認められない結婚であり、また伝統の受け継がれている地方で特に広まっているものであることを明らかにした。


アナトリア東部および東南部でいまだに続く因習的な結婚形態の一部は、何らかの事件・問題が起きた際、全国的なニュースとなって私たちの耳にも届く。
近年流行となっているアナトリア中部や東南部を舞台としたテレビドラマの中でも、現代日本人である私たちには、にわかに信じがたい結婚例がしばしば登場するが、これは作り話でもなんでもなく、一部の地方の現実の一片を切り取って見せているに過ぎないことが分かる。


個人的には、調査のサンプル数、それぞれの結婚の全体における割合等に関して言及がなかったのが残念である。さらに順不同なのか、順番には何らかの意味付けがあるのか、そこが気になるところだ。
また、27番の意味が不明なこと、29番、30番のように実際の調査結果というより傾向分析(流行分析?)と思える分類が入り混じっているところが、研究としてどうなのか。(正直なところ、29番には笑いを禁じえなかったが・・・)
いずれにせよ、非常に興味深く翻訳できたことだけは白状しよう。

*1:muta=veri(資料、データ) 

*2:2001年、日本テレビ『進ぬ!電波少年』の企画で、トルコ男性とのお見合いを希望する独身女性の中から選ばれた中園邦仁(なかぞの・くに)さんをトルコへ連れて行き、テレビや新聞を通じて花婿募集したところ、なんと167名ものトルコ人男性が応募してきた一件。